フルレンジスピーカーのための真空管アンプの設計と製作、その14

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写真は、製作途中のBa-EC88によるカスコード型ラインアンプです。


今回のラインアンプから、トランスケース、シャーシーも含め全て図面から起こしました。
特にシャーシーは理想を追い求めると、どうしてもオリジナルになってしまいます。

シャーシーを設計するにあたって、まず、部品のレイアウトを決めなければなりませんが、部品
レイアウトは単にデザイン的に美しいからという考えは、私敵にはありえません。
あらゆる方面から考えて試行錯誤した結果、最終的に、デザイン的にも優れているというのが理想です。

部品レイアウトについては、技術雑誌などの記事を見てもあまり詳しく述べられたものは見たことが
ありませんが、アンプ、特にプリアンプにとってレイアウトは非常に重要な要素です。
良いアンプというのは、この段階で決まってしまうといってもいいかも知れません。
その部品の位置は本当にそこでいいのか? 配線の引き回しはそこでいいか? 
色々な面から考えなければなりません。すべてには理があります。

アンプの究極的な形は、増幅機能を持った点です。
しかし、全ての部品は、物理的にサイズを持っています。
電源はノイズ源ですから、増幅回路とはある程度距離をとらなければなりません。
また、物理的には難しいですが、入力回路、出力と増幅回路は近くなければなりません。
そして、電源系、信号系ともループをできるだけ小さくすることを考えなければなりません。
増幅回路内はループを小さくする意味からもコンパクトにまとめなくてはなりません。

例として、電源回路の平滑コンデンサー一つとっても、単純ではありません。
電源の平滑コンデンサーは、電源のリップル成分をグランドへ逃がすフィルターの役割もありますし、
増幅回路へ瞬時に電流を供給する役割も持っています。
電源の整流管の直後のコンデンサーは電源の一部で、電源リップルをグランドを経由して電源トランス
に戻します。この電源のループを最小にするために、このコンデンサーは電源の近くに配置しなければ
なりません。
また、電源回路の最後のコンデンサーは増幅回路の一部で、増幅回路へ瞬時に電流を供給する役割も
持っています。コンデンサーから供給された電流は増幅回路を経てグランドへ、そしてコンデンサーへ
戻されます。このループを最小にするために、このコンデンサーは増幅回路の近くに配置しなければ
なりません。
多くの方はこの最後のコンデンサーも電源の一部と考え電源側に配置されていますが、以上の理由に
より増幅回路の近くに配置するのが正解です。せっかくコンデンサーのポイントではインピーダンス
が低くなっているのに、そこからわざわざ長い配線を引き回してインピーダンスを高くしてしまうのは
変な話です。

また、部品レイアウトは、グランドの考え方とも密接に絡んできますので、一筋縄ではありません。
プロの方の製作例でも、一見、とても綺麗に整理されたレイアウトで美しい内部配線のアンプで
あっても、ループやグランドの観点から見ると間違ったものが多いです。
(ほとんどといてもいいかもしれません。)
電源のプラスとグランドの配線が全く別々の方向へ走ってゆく例はざらにあります。
(電源の配線は必ずプラスとグランドを沿わせて配線しなくてはなりません。そうしないとプラスと
グランド間(電流の行きと帰り)でループができてしまいノイズを撒き散らすことになります)

真空管アンプで、ループやグランドについて、慎重にならなければならない理由がもう一つあります。
それは、真空管アンプが片電源であることに由来します。
Trアンプなど半導体のアンプは、半導体の特性から基本的にプラスマイナス電源で設計されます。
プラスマイナス電源ですので、グランドには基本的に電源電流は流れず、信号電流のみのクリーンな
グランドとなります。
しかし、真空管アンプの場合は、片電源(プラスだけ)ですからグランドには電源電流が流れます。
そして同じグランドに信号電流も流れます。したがって、信号系と電源系を区別して信号系へ電源系
の電流が流れ込まないようにグランドを設計しなくてはなりません。
なぜ電源電流が信号系へ流れ込むとよくないかといいますと、一つは、信号系のグランドをクリーン
に保つため、もう一つは、電源系のグランドには大電流が流れるわけですから、流れた間のグランド
とにはインピーダンス差が生じます。もし、その中に信号系のグランドがあれば増幅回路自体が不安定
になってしまうからです。
真空管アンプは、回路が単純だから簡単と考えられがちですが、実際には非常に難しいのです。


-----------コラム----------
これは、メーカーでプリアンプを設計したときの話です。 久しぶりに高級プリアンプの新作を
開発することになり意気込んで開発を進めていました。すでにCD全盛でしたが、豪勢なPHONO回路
を搭載し、部品もハイグレードなものを使用し、設計者としてはこの上ない仕事でした。
音質も非常によく、部内では久しぶりの高級プリアンプに期待が高まっておりました。
しかし、さらに音を良くしようと欲を出したのが運のつき、量産前にパターンに少し手を加えた
のが悪かった。全てのバランスが崩れて、あれほど良かった音が見る影もなく・・・。
今となっては良い思いでですが、当時は生きた心地がしませんでした。
アナログ回路の難しさを再認識させられた出来事でした。